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オォ 痛くない!
首筋、背中、そして腕に時折触れるが、痛くはない。かえって触った感覚がやさしくて、楽しい。湖面の下は緑色の宇宙。半透明のオレンジ色の“星々”があらゆる方向に均一に、どこまでも広がっている。よく見ると、頭にドームを持った小さな宇宙船のようでもある。大人の手のひら大のものから、小指の先ほどの小さなものまで、ヒクヒクと全身を震わせて進む様子がまたかわいい。
南海の楽園、スキューバダイバーあこがれの地として知られるパラオを訪れ、クラゲと泳いだ。ジェリーフィッシュ(たこくらげの一種)は、石灰岩でできた丸くこんもりとした形が特徴のロックアイランドと呼ばれる島々と並んで、パラオのシンボル的な存在だ。
500を超すといわれるロックアイランドを巡るツアーは基本的にボートを利用する。環礁に囲まれた内海は穏やかで、澄んだ水面は鏡のよう。凪(な)いだ海を滑るようにボートで移動するのは快適だ。ジェリーフィッシュレイクもこれらの島々の中にある。
小さな入り江の桟橋でボートを降り、歩きやすいとはとても言えない峠を十分ほどかけて越えると、山々に囲まれた小さな湖が現れる。そこはもう、ボートの音だけでなく、人工の音は何も聞こえない。幸せを呼ぶというシラオネッタイチョウの真っ白な十字架のような姿が青空を舞い、「ホーホーホー」というパラオの国鳥ビーブ(ホリイヒメアオバト)の鳴き声が時折聞こえるだけ。
光を求めてゆらゆらと漂うクラゲと泳ぐと、時間を忘れてしまう。ひところ流行(はや)ったクラゲ飼育の癒やし効果を身体全体で感じることができる。
クラゲは普通、その毒ゆえに恐れられ嫌われる。しかし、ジェリーフィッシュレイクにすむ種類は毒をほとんど持たない。
この湖は地殻変動で環礁が隆起してできた汽水湖。外海と閉ざされた世界にすむ彼らには天敵がいない。そのうえ、彼らは体内に褐虫藻を持っている。ちょうどサンゴと褐虫藻の関係と同じように、褐虫藻の光合成によってエネルギーを補給している。そのため彼らは、進化の過程で毒を捨てたのだといわれる。クラゲ特有の毒を持った長い足はなくなり、人を刺す危険はほとんどない。誰が試したのかは知らないが、口に入れると「ピリピリ」とはするらしい。
70年代に初めてこの湖を見つけたのは現地ダイビングショップのスタッフとも、パイロットともいわれる。上空からオレンジ色の湖を見つけて潜り、彼らと出会った。湖を染めるほどの大群、1000万匹を超すクラゲの真っただ中で、最初に潜った勇気はとても想像できない。
「好みが分かれるのですが、パラオ滞在中にまた来る人も多いんですよね」とは、現地ツアーガイドの秋山香里さん。今回の同行者たちは「ちょっと気持ち悪いかも」と警戒していた人たちも、帰りには「面白かった」と意見が一致した。
今回のツアーではジェリーフィッシュレイクのほかに、保湿、美白、アンチエイジングに効果があるという白い泥が沈殿する「ミルキーウエイ」と呼ばれる入り江や干潮時にだけ姿を現す砂浜「ロングビーチ」を訪れた。ホテルのビーチでくつろぐころには、海に沈む夕日が真っ赤に空を染め、身も心も癒やされたツアーの最後を彩った。