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サケ、磁場を感知して母川に回帰—米研究チームが確認
Dr. Tom Quinn/University of Washington
産卵のためにフレーザー川に回帰するベニザケは、バンクーバー島周辺の北側と南側の2つのルートのいずれかを通る
サケは地球の磁場という自然の磁気地図に導かれて母川に回帰する。つまり、自らを地球の磁場に同調させつつ、この第六感を使って大洋を何百マイルも航海していることが確認されたーー。米国の大学の研究チームが発表した。
論文は7日の科学誌「カレント・バイオロジー」に掲載された。
研究チームは、魚がどのようにして自分の方位を知るのかを調べるため、局所的な磁場の記録と過去56年間の商業漁獲のデータとを比較した。これは、カナダ・ブリティッシュコロンビア州を流れるフレーザー川に毎年帰ってくるベニザケがたどった回帰ルートを記録したデータだ。フレーザー川への母川回帰は例年、米国の太平洋岸北西部や隣接のカナダに約10億ドル(約940億円)ないしそれ以上の漁業収入をもたらしている。
産卵するサケは、このたぐいまれな地理的察知能力を利用し、大洋から戻る際にバンクーバー島を北ないし南の方向に迂回(うかい)して、フレーザー川沿いの出生水域にたどりつく必要がある。オレゴン州立大学のネーサン・パットマン博士率いる研究チームは、サケの回帰ルートが体内に備わる誘導システムの磁方位によって形成されると結論付けた。そして、そのルートは、サケが局所的な磁場の強さの変化に適応して、シフトしているようだという。
研究チームの一員であるノースカロライナ大学の生物学者ケネス・ローマン氏は、サケが回帰ルートについて「判断するよう基本的に強いられている」と述べ、「回帰方向についての判断は、地球の磁場の極めてわずかな変化と関連している可能性がある」と付け加えた。
サケがどのようにして磁場を感知しているのか確実に分かっている人は誰もいない。しかし、従来の研究所での実験で、ウミガメには自分の周囲の磁場変化を感知する能力が備わっていることが示されている。また、ある研究チームは今年、ニジマスの肉にマグネタイト(磁鉄鉱)の微量の結晶が含まれていることを発見した。これは方位磁石の針に使われているのと同じ鉱物だ。
今回、研究チームは「カレント・バイオロジー」で、年ごとにサケがどのような回帰ルートを通ったのかを正確に再現できたとしている。バンクーバー島の北側を通って回帰したサケは、カナダの漁民に捕獲され、南側を通ったものは米国の漁民に捕獲されるからだ。
ダムのない河川としては北米最長のフレーザー川に回帰するベニザケの総数は近年、過去最低から過去最高まで、年ごとに大きく変動している。このため、パットマン博士は、「サケがたどる回帰ルートの予想比率への関心は(漁業関係者などの間で)非常に高い」と指摘する。
実際、研究チームは、北方からカナダ水域に戻るサケが増え、南方から米国水域に戻るサケが減って米国の漁船の漁獲量が減少したのは、最近数十年間で地球の磁気地図がわずかに変化したためだったことを突き止めた。そして、この「北に多く、南に少ない」トレンドは予見できる将来も続く、と研究チームは見通した。
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